圧倒的な楽観主義 2024年2月度座談会拝読御書「大悪大善御書」

創価学会では、毎月、全国各地で座談会という集いを開き、鎌倉時代の日蓮大聖人(1222年~1282年)が書き残された「御書」(論文や手紙など)を学び合います。機関誌の「大白蓮華」や「聖教新聞」には、その月に学ぶ「座談会拝読御書」を解説する記事が掲載されていますので、ここでは、信仰を持っていない方々にも理解しやすい視点から、青年部員が御書の内容を解説します。

こんにちは。2月度担当のコゴローです。

先日、妻の姉の結婚披露宴のため沖縄に行きました。沖縄の祝宴には欠かせない琉球舞踊「かぎやで風」に始まり、最後はカチャーシー(喜びを表す沖縄伝統の踊り)。私もお酒の力を借りて、ぎこちない踊りを披露しました。皆が一体となって舞い、義姉夫婦の新出発を祝い、喜びを分かち合いました。

心の底からうれしいことがあると、人間は体でその喜びを表現してしまうもの。今回の拝読御書にも、舞い踊る人たちが登場します。一体、何を喜んでいるのでしょうか?

拝読御書について

今月の御書は、「大悪大善御書」です。

本抄は、一部分のみが伝えられているお手紙(断簡)のため、いつ、誰に与えられたかは不明です。内容等から1274年(文永11年)の「蒙古襲来(文永の役)」によって社会が騒然とする中で、門下を励ますために認められたものではないかとも考えられます。

日蓮大聖人が生きておられた当時、三災七難(注1)が相次ぎました。大聖人が「立正安国論」(注2)で示された自界叛逆難、他国侵逼難が、それぞれ二月騒動、蒙古襲来として現実のものとなりました。

(注1)三災七難[さんさいしちなん]
正法に背き、また正法を受持する者を迫害することによって起こる災害。三災について『大集経』には①穀貴[こっき](飢饉などによる穀物の高騰)②兵革[ひょうかく](戦乱)③疫病[えきびょう](伝染病の流行)が説かれる。
七難は経典により異なるが、薬師経には①人衆疾疫難[にんしゅしつえきなん](人々が疫病に襲われる)②他国侵逼難[たこくしんぴつなん](他国から侵略される)③自界叛逆難[じかいほんぎゃくなん](国内で反乱が起こる)④星宿変怪難[しょうしゅくへんげなん](星々の異変)⑤日月薄蝕難[にちがつはくしょくなん](太陽や月が翳ったり蝕したりする)⑥非時風雨難[ひじふううなん](季節外れの風雨)⑦過時不雨難[かじふうなん](季節になっても雨が降らず干ばつになる)が説かれる。
(注2)立正安国論[りっしょうあんこくろん]
1260年(文応元年)7月16日、日蓮大聖人が39歳の時、鎌倉幕府の実質的な最高権力者である北条時頼に提出された国主諫暁の書。飢饉・疫病・災害などの根本原因は謗法であると明かし、正法に帰依しなければ、経典に説かれる三災七難のうち、残る「自界叛逆難(内乱)」と「他国侵逼難(外国からの侵略)」が起こると予言。しかし幕府はこの諫言を用いることはなかった。二難はそれぞれ1272年(文永9年)の二月騒動(北条一族の内乱)、1274年(文永11年)と1281年(弘安4年)の蒙古襲来として現実のものとなった。

大聖人は本抄で、大悪は、正しい教えが広まる大善の前兆であるとの御確信を述べられます。ゆえに門下の一人一人は、少しも嘆く必要などない、と励まされています。

そして、『法華経』において、成仏の法を聞いて歓喜に舞い踊った迦葉や舎利弗のように、また、妙法の流布を担おうと大地から躍り出た上行菩薩のように、さらには、『法華経』の会座に勇んで駆け付けた普賢菩薩(注3)のように、現在の厳しい苦難に対しても、喜び勇んで妙法を実践するように教えられています。

(注3)普賢菩薩[ふげんぼさつ]
普賢はサンスクリットのサマンタバドラの訳。「あらゆる点で優れている」の意で、仏のもつ優れた特性(特に実践面)を人格化した菩薩。『法華経』では普賢菩薩勧発品で登場し、法華経の修行者を守護する誓いを立てる。

使命を自覚した舞い

本文

大事には小瑞なし。大悪おこれば大善きたる。すでに、大謗法、国にあり。大正法、必ずひろまるべし。各々なにをかなげかせ給うべき。迦葉尊者にあらずとも、まいをもまいぬべし。舎利弗にあらねども、立っておどりぬべし。上行菩薩の大地よりいで給いしには、おどりてこそいで給いしか。

(御書新版2145ページ1行目~3行目、御書全集1300ページ1行目~3行目)

意味

大事の起こる前には、小さな瑞相はない。大悪が起これば、大善がくる。すでに大謗法が国にある。それゆえ、大正法は必ず弘まるであろう。あなたたちは何を嘆かれることがあろうか。(必ず大善がくるとの喜びに)迦葉尊者でなくても、舞を舞うべきところである。舎利弗でなくても、立って踊るべきところである。上行菩薩が大地から現れた時には、まさに踊り出られたのである。

語句の説明

・「謗法」(ほうぼう)
誹謗正法[ひぼうしょうほう]の略。正法、すなわち釈尊の教えの真意を説いた『法華経』を信じず、かえって反発し、悪口を言うこと。
・「迦葉尊者」(かしょうそんじゃ)
釈尊の十大弟子の一人。衣食住に関する欲望などを払い除く頭陀行に徹し、「頭陀第一」といわれた。
・「舎利弗」(しゃりほつ)
釈尊の十大弟子の一人。「智慧第一」といわれた。
・「上行菩薩」(じょうぎょうぼさつ)
『法華経』に登場する地涌の菩薩を代表する四菩薩の筆頭。末法における正法弘通が上行をはじめとする地涌の菩薩に付嘱された。

冒頭、「大事には小瑞なし」とありますが、小瑞とは小さな瑞相のことです。瑞相とは、雨が降る時には雨雲が空いっぱいに広がるように、物事が起こる前触れ、兆しを意味します。古来、どんなささいな事でも、その前触れがあらわれるものと考えられていました。

大聖人は、「大悪」、つまり、この上もなく悪い出来事が、「大善」の兆しであると言われています。また、「大謗法、国にあり。大正法、必ずひろまるべし」とあるように、「大悪」は大謗法が国中に充満していること、「大善」とはその国に大正法が広まることだと考えられます。

では、どうして「大謗法」が国に充満することが、「大正法」が広まる兆しとなるのでしょうか。大謗法によって、もっと悪いことが起こるような気がします。

拝読御文の最後には、地涌の菩薩の代表である上行菩薩が地面から躍り出てくることについて触れられています。上行菩薩は、釈尊が亡くなった後に、正法を人々に弘めることを任されました。

大聖人は、謗法が国中にはびこり、天変地異や飢饉が相次ぐ現在の世相こそ、まさに末法であると考えられ、上行菩薩としての使命に立って、〝今こそ正法を弘める時〟と行動を開始されます。

しかし、それによって、『法華経』に説かれる「如来現在猶多怨嫉。況滅度後(この法華経を説く時は釈尊の存命中でさえ、なお怨嫉(反発・敵対)が多いのだから、ましてや釈尊が入滅した後において、より多くの怨嫉を受けるのは当然である)」との言葉のままに、度重なる迫害を身に受けることになったのでした。「各々なにをかなげかせ給うべき」と言われた背景には、当時の大聖人とその門下の、厳しい現状があったのだと思われます。

苦難の嵐の中にある弟子たちに大聖人は、舞い踊る人々をたとえにして、励ましを送ります。

迦葉と舎利弗は、釈尊の弟子の中でも中心的な存在でした。ただし、釈尊は自分たちとは異なる、かけ離れて偉大な存在であるため、迦葉や舎利弗たちは自身が仏と同じ覚りを得られるとは思っていません。しかし、『法華経』において彼らの成仏が明らかにされたことで、踊り出すほどの歓喜へと至ります。

一方、上行菩薩も舞い踊る存在として記されていますが、彼は釈尊から託された正法を弘めていくという使命を喜ぶ舞いです。上行菩薩は自ら喜び勇んで、謗法があふれる末世の娑婆世界を選び、民衆救済のために生きるのです。

大悪が大善の兆しになるというのは、ただ待っていれば大善が来るというような〝のんき〟なものではありません。大悪が起きたときに、大善へと転じていこうとする使命の自覚と言えるでしょう。

何が起こっても負けない

今回の御文に特徴的なのは、圧倒的ともいえる〝楽観主義〟です。

大聖人は、苦難の嵐の中にある弟子たちに「なにをなげくことがあるのか」と激励されています。どのようなことが起きても絶対に負けない!――この不屈の〝楽観主義〟を生み出すのが大聖人の仏法であり、それが私たち創価学会の根本精神と言えます。

信仰の有無にかかわらず、人生は山あり谷あり、さまざまな困難がつきものです。仕事や家庭の問題、病気などで大変なことが起これば、誰でも不安になり、落ち込みます。ましてや、人生で「大悪」と呼べるような苦難に遭えば、絶望に沈むものでしょう。しかし、その苦難に意味を見いだし、それでも前を向き、良い方向へ進みゆく力を与えるのが信仰です。

池田先生は言われています。「仏法の楽観主義は『なんとかなるだろう』というような〝現実逃避の楽観主義〟ではない。むしろ悪は悪として、苦しみは苦しみとして直視する。そして、それと断固、戦う。どんな悪や苦難とも『戦える自分自身』を信ずるのです。そういう〝戦う楽観主義〟です」(『池田大作全集』第31巻「法華経の智慧」)

「大悪」を飛躍のチャンスと捉え、「大善」へ転換していく――。そこに幸福への道が開かれるのです。


今回の御書解説動画Gカレ! 2024年2月度座談会拝読御書「大悪大善御書」 もぜひご覧ください!

御書のページ数は、創価学会発行の『日蓮大聖人御書全集 新版』(御書新版)、『日蓮大聖人御書全集』(御書全集)のものです。

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#座談会拝読御書 #任用試験(仏法入門)

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