先輩から後輩へ受け継がれる“励ましのシャワー”
幅広い年齢層の中で育まれる人間性
「富士鼓笛隊」という団体を聞いたことはありますか?
創価学会では、文化芸術活動を通した人間形成に力を入れており、その一つの場が富士鼓笛隊です。行進しながら楽器を演奏するマーチングバンドのチームや、旗(フラッグ)やライフルなどの手具を回したり投げたりして演技するカラーガードとバトン演技を行うバトントワーリングの合同チームなどがあります。
この富士鼓笛隊は約70年前の1956年に誕生。現在は首都圏や関西をはじめ、各地域で鼓笛隊が結成されており、毎年、全国約50のイベントやパレードに出演してきました。池田大作先生(創価学会名誉会長)から、「太陽のように明るく 月光の如く清らかな鼓笛隊たれ」との指針をいただき、私たち隊員一人一人は「平和の天使」との誇りを持ちながら、挑戦を重ねています。
富士鼓笛隊の特徴――その一つが「隊員の構成」。小学生から社会人まで、幅広い年齢層の女性たちが所属しています。社会人もプレーヤーとして参加している団体は全国的に見ても稀です。鼓笛隊では、世代を超えた交流が日常的に行われ、その中で社会性、人間性が自然と磨かれていきます。私も鼓笛隊の中で他者と関わり、仲を深める喜びをつかみ取った一人です。
第三の居場所が心の支えに
私は5歳から、地元のスクールでバトントワーリングを習い始めました。日本のバトントワーリングは世界トップレベル。スクールの中では、「私を見て!」と言わんばかりに、皆が熾烈に競い合い、常に緊張感が漂っていました。もともと引っ込み思案な私はいつも気圧されるばかり。それでも技術が向上していくことが楽しくて、スクールには通い続けました。
富士鼓笛隊に興味を持ったのは、小学生の時です。初めて地元のスクールの一員として出場した大会で、富士鼓笛隊の演技を見ました。観衆を圧倒する表現力と躍動感に感動し、あこがれました。「自分も富士鼓笛隊に入って、一緒に踊りたい」と、12歳の時、入隊したのです。
忘れられない思い出があります。鼓笛隊の練習に一生懸命取り組んでいた中学時代のことです。当時、学校でいじめのターゲットにされました。心配をかけたくない一心で母には伝えず、家では家族に悟られないよう、明るく演じる日々。学校でも家でも、気が休まることはありません。唯一安心できる居場所が、鼓笛隊だったのです。いじめを直接、鼓笛隊の先輩や友達に相談したわけではありませんが、毎回、練習に行くと「今日もよくきたね!」と皆が温かく迎え入れてくれたことで、安心を得ました。
鼓笛隊の先輩たちは、大学受験、就職活動、仕事など、さまざまな悩みに挑みながらも、明るくひたむきに挑戦されており、皆がキラキラ輝いて見えました。同級生も、後輩も学校生活、鼓笛隊の練習と、全てに一生懸命取り組む様子がひしひしと伝わり、触発を受けました。私がいじめに負けず、その後、克服できたのは、そうした鼓笛隊の一人一人が私の心を支えてくれたからに他なりません。鼓笛隊のおかげで、私は自分自身を卑下したり、絶望したりしませんでした。
鼓笛隊で受けた“励ましのシャワー”
池田先生は次のようにつづられています。
「鼓笛隊は、音楽の技術を磨くだけではなく、友情と団結の心を培い、自身を鍛え輝かせる"青春学校”ともいうべき役割を担ってきた」
(『新・人間革命』第15巻「使命」の章)
私も、この“青春学校”のおかげで、いじめの克服のみならず、自分自身を鍛え、成長を実感する出来事をたくさん経験してきました。
中学生の頃、バトントワーリング大会を控えていた時のこと。先輩が「技術だけで1番になっても仕方がない。自分の心を磨き切ってこそ、人の心に響く演技ができるようになるんだよ」と教えてくれました。私は、そうした先輩の指導を胸に自分の弱い心を乗り越えて、練習に練習を重ね、大会に臨みました。演技を終えると、観衆の方々から大きな拍手が。感動で胸がいっぱいになりました。
さらに中学3年生の時には、池田先生の会長就任50周年を祝賀する本部幹部会に出演することに。当時の鼓笛部長から、「みんなは池田先生の側に立って、エールを送る一人一人に成長していこう」と呼びかけられ、私もそう誓いを立てました。そして、本番を迎えるまでに、鼓笛隊の後輩たちに電話で近況や悩みを聞いたり、友人に創価学会の中で自分が成長する実感を語ったりと、演技演奏だけでなく、自分の振る舞いで皆を励ませるよう、挑戦を続けたのです。そうした日々は大変であっても、充実を感じ、今でも心に残る大切な思い出になりました。
振り返ってみると、鼓笛隊では、練習での行き帰りの時間、先輩方がよく話を聞いてくれました。「練習は大変じゃない?」「最近、学校どう?」など、話しやすい環境づくりをしてくれていたように思います。私もいつの間にか、同じく後輩に接することができるようになっていました。
この“励ましのシャワー”を後輩に注ぎ続ける伝統が、一人一人の成長の根をはりめぐらせ、人格の花を咲き香らせる源泉だと感じます。
勇気と希望を届け続ける
2024年3月24日に東京の国立競技場で開催された「未来アクションフェス」では、富士鼓笛隊も出演させていただきました。後日、そこで共演した、ある中学校のマーチングバンドのみなさんから80通ものお手紙をいただいたのです。その内容は、「共演を通してたくさん学ばせてもらいました」「鼓笛隊のみなさんとまた一緒に演奏できる日が来ることを願っています」などの思いがつづられていました。私たちこそ、その中学校の一人一人から学ぶことが多くありました。
世界を取り巻く諸課題は混迷を極めていますが、それでも音楽などの文化芸術が人と人の心を結び、その絆が広がってこそ、平和が創られていくんだと感じてなりません。
鼓笛隊の中で受け継がれる先輩から後輩への“励まし”。そうして培われた友情と団結が、演技・演奏と日々の振る舞いに現れ、地域社会に勇気と希望を送り届けることができる――そう確信して、これからも挑戦の日々を送ります。