ノイジー・マイノリティーを考える

ノイジー・マイノリティーを考える

出所や根拠が不明な情報が大量拡散されることを、「情報(information)」と「流行(epidemic)」を組み合わせて「インフォデミック(infodemic)」と呼ぶ。WHO(世界保健機関)が警戒を促すなど、2年におよぶコロナ禍でも、深刻な問題であり続けている。

たとえウイルスの流行が収束しようとも、人が生み出し、人を惑わすこの伝染は、デジタル社会において終わりを迎えることはないだろう。一人一人に求められるのは、情報を見極める目を持つこと。そして、その目を常に磨くことである。

情報が洪水のように流れる今を生きる方途を、「ノイジー・マイノリティー」という概念に焦点を当てて考えたい。

<少数であっても、目立ち影響力を持つ>

「ノイジー・マイノリティー」は直訳すると、「声高な少数派」である。その実数は、例えばツイッターなどのSNSにおいても、おそらく利用者全体の数%にも満たない。

しかし、彼らの声は実際より、数も影響力も肥大化した印象を残す。アメリカ人ジャーナリストのマーティン・ファクラー氏(元ニューヨーク・タイムズ東京支局長)は、著書『データ・リテラシー』にこう記している。

「『ノイジー』の名のとおり、彼らが発する抗議の声はとてもうるさくしつこい。実態よりもはるかに大勢に見えてしまう。そういう人の声は、ソーシャル・メディアを使うと拡声器のように大きく広がり、とても目立つ。ノイジー・マイノリティは、普通の人の100倍も騒ぐ。『オレたちの意見こそが世論だ!』と彼らは叫ぶわけだが、世の中の9割以上の人たちは、極端な意見を口にすることなく静かにしている。今の時代を生きる一つの知恵は、ソーシャル・メディアの中で叫ばれる言葉の中のボリュームはすなわち世論ではないと理解することだ」

マーティン・ファクラー著『データ・リテラシー』

氏が示す例を挙げたい。アメリカの調査会社「ピュー・リサーチセンター」の調査によると、アメリカ政治に関するツイッターの投稿の73%は、ツイッターの全ユーザーのたった6%が発信した。また、全ユーザーのうち69%は、1年間にせいぜい1回しか政治についての話題は投稿しない。

つまり、政治に関する投稿は、ごく少数のユーザー(ノイジー・マイノリティー)の発信で占められ、その他の大多数のユーザーは、政治に関しては何の発信もしていないに等しい。こうした構造によって、ツイッターには、極端な意見ばかりが目立つのだ。

彼らノイジー・マイノリティーの発信には、さまざまな意図が透けて見える。それらをよく認識した上で情報に触れなければ、身の回りの出来事も、世界の潮流さえも、大きく見誤ってしまう。

にもかかわらず、“多くの人が同じように考えているんだ”と信じ込み、発信された情報を自らも拡散してしまいがちな点に、「インフォデミック」の時代の特徴があるといえる。もともと偏っている意見を、さらに差別的で攻撃的、排他的な方向へと暴走させてしまう危険すらある。

ノイジー・マイノリティーを前にして、自分の意見を近付ける必要もなければ、自信を失う必要も当然ない。“彼らは取るに足らない存在なのだ”と認識することが大切であり、問われているのは、いかに自分の主張を保てるかである。

<うそが真実になってしまう時代>

情報は正しいものばかりではないどころか、あたかも正義であり、真実と思われてしまうことがある。「フェイクニュース」は深刻な問題だ。

フェイクニュースの背後には、“受ければ何でもいい”といった考えや、人を扇動しようとしたり、政治的影響力を及ぼそうとする目的が動機となっている。私たちが日常的に目に触れる情報に、こうした虚偽情報が多分に含まれていることに注意が必要だ。

情報は多ければ多いほど、注意力は散漫になる。ツイッター、ユーチューブ、インスタグラム……異なる媒体で同じ情報を繰り返し目にすると、書かれた内容の真偽をよく確かめなくなり、結果的に鵜吞みにしてしまう。そして、フェイクをファクト(事実)と信じ込む。

そもそも、人はフェイクを信じやすい。根拠不明な情報でも、何度も報道されたり、見聞きしたりすると、正しいという認識が生まれ、強化されてしまう傾向があるからだ。

では、フェイクニュースをどう見極めれば良いか。アメリカにある、ニュースとジャーナリズムの博物館は、「ESCAPE Junk News(ジャンクニュースから逃げろ)」という標語を掲げ、情報の真偽を判断すべき基準を「ESCAPE」の6項目に込めた。

①Evidence(証拠):その事実は確かか
②Source(情報源):誰がつくったのか、つくった人は信頼できるか
③Context(文脈):全体像はどうなっているのか
④Audience(読者):誰向けに書いてあるのか
⑤Purpose(目的):なぜこの記事がつくられたのか
⑥Execution(完成度):情報はどのように提示されているか

笹原和俊著『フェイクニュースを科学する』を参照

これらの点を意識することが、情報を「正しく見極める」ために大切となる。

<自分自身に確かな規範を>

1918年から20年に流行したスペイン風邪の頃の情報伝達力を「1」とすると、2002年のSARSの時は「2万」、2009年の新型インフルエンザの時は「17万」、そして、コロナ禍の2020年は「150万」と推定されるという。

情報が伝わる力は、年々、爆発的に高まっている。そのことを認識し、私たちは、情報をコントロールし、情報を受けとる眼と心をアップデートし続けなければならない。

ソーシャル・メディアに厳格な法規制を行っている国もある。制度を整えることはもちろん必要だが、同時に、自分自身に確かな規範を打ち立てることが大切だ。

ノイジー・マイノリティーの対義語は、「サイレント・マジョリティー(物言わぬ多数派)」である。欺瞞を打ち破るために、沈黙していてはならない。

私たち男子部は、情報を見極める目を磨きながら、正しいものが正しく受け止められるための言論を展開していきたい。

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