子育て日記。妻はうつです。 絵本は大人こそおすすめ。「毎日つらい」という親こそ読んでほしい

手にあまるような困難に直面すると、人は視野狭窄に陥りがちです。「こうしたら、ああなるか」「ああしたら、こうなるか」。ずっとその事ばかりに気を取られてしまい心が落ち着きません。チャップリンの言葉に「人生はクローズアップで見れば悲劇、ロングショットで見れば喜劇だ」とありますが、それにならうなら、何とかして、少し距離を取りながら問題と向き合いたいものです。

わが家では、妻が第二子出産後、産後うつになりました。年子の二人の子はまだ幼い。そういう状況だと、「少し距離を置いて」なんて悠長なことは言ってられません。毎日が戦いでそれどころではない、というのが本音です。

でも、これまでの生活を振り返ってみると、少し距離を置いてものを見るきっかけは、いくつかありました。例えば、「絵本の時間」です。子どもに読み聞かせるつもりで読んでいて、気づいたら自分が絵本の世界に入っていたり、空想していたりすることもしばしばでした。それはとても心地のいい時間で、凝り固まったもの(視界とか心とか?)がほぐされるような不思議な体験です。

好きな絵本はたくさんありますが、例えば、長新太さんの「ゴムあたまポンたろう」とか、おすすめです。頭がゴムでできた男の子が、山や大男、動物にぶつかってはボールのようにはねて、いろんな世界に飛んでいくユーモア絵本です。日頃、理屈や「役に立つ」ばかりに支配されて固くなった頭を、ゴムみたいに柔軟にさせる良い機会になりますよ。

児童文学家の松居直さんは「絵本というのはバリア・フリーなんです……子供から大人まで、言葉と絵で非常に幅のある自在な世界だと思います」と、『絵本の力』という本で語っています。

大人こそ、いつも身の回りに絵本を置いていた方がいい。仕事や育児など日々の生活であくせくしている中で忘れていた大事なもの――ユーモア、悲しみ、孤独、支え合い、別れ、死、生命といったものが、じっくりと読む中であぶり絵のように浮かび上がってきます。

冒頭、手にあまるような困難と書きましたが、人生って実は「この手の困難だらけ」だと思うんです。病気や災害、家族の問題など、一人では解決できないような問題は必ず起きるのに、ITなど技術の進歩によってか、人は物事の大半を自分でコントロールできると錯覚してしまっているのではないでしょうか。スマホでも、何かリモコンでもいいですが、「片手で操作できる」と勘違いしている。その感覚は今、世の中にあふれています。

これって非常にリスキーだと思います。いざ、片手ではどうにもならないような問題に出合った時、パニックに陥ったまま、抜け出せなくなるからです。

一方で、絵本を読むという行為は片手ではできません。「自分でめくって、自分がその中に入って、自分という存在がそれに関わって見ていくもの」(『絵本の力』)だからです。こうした体験も生活には不可欠です。音楽の分野でも、アナログレコードが再ブームになっていますが、もしかしたら、スマホの便利さとともに、両手を使う体験を人間が欲している証拠なんじゃないか。そんなことを思ったりもします。

信仰者としては、次元は異なりますが、「祈る時間」は「絵本の時間」と通ずるものがあります。何が今、自分の人生にとって大切か、豊かになるか。そういったことに向き合える、大切な時間です。スマホに常時接続された、つまり片手がふさがれている現代人にとっては、とてもリッチな体験ともいえます。

あなたには、片手ではできないような、少し手間で、だけれど豊かといえる時間はありますか?

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