変化の時代の信仰継承―つながりの意義と役割

「こどもの日」も「母の日」もある5月。子どもたちの成長を願ったり、親への感謝を伝えたり、家族の大切さを改めて感じる時が重なります。

創価学会では、「こどもの日」の5月5日を「創価学会後継者の日」と定めています。ここで言う「後継者」とは、信仰を継承していく若い世代、特に子どもたちを指します。

日蓮大聖人の門下の中にも、信仰に励む若い世代がいました。中世と現代との間では、社会や日常生活と信仰との密着度合いなどさまざまな状況が異なりますが、子どもが信仰者であれば、おおむね親から継承しているという点は、あまり変わらないでしょう。

大聖人が信仰の継承についてどのように仰せなのか、御書をひもといてみます。

教えは伝え広げるもの

仏法の教えは、限られた人々が独占するものではなく、伝え広げるものです。特に大乗仏教の修行者である菩薩は、自らが修行して仏の覚りを目指すのと同時に、仏の教えによってすべての人々を苦悩から救済しようとする誓願に生きます。

また、あらゆる人々を幸福へ導く「万人成仏」の教えである『法華経』には、「広宣流布」(創価学会版『法華経』601ページ)という言葉があり、仏が亡くなった後、教えを世界に「広く宣[の]べ流布する」ことを呼びかけています。距離を超え、時代も超えて伝え広げていくことによって、万人成仏を現実に進めていけるのです。

そのために大聖人は、流罪などの迫害にたびたび遭いながらも、人々への深い慈悲をもって、南無妙法蓮華経を唱え伝える御生涯を貫かれました。さらに、未来において全世界へ南無妙法蓮華経が広まっていくことを願い、世界広宣流布を展望されています(2023年5月度座談会拝読御書を参照)。

主君との関係が悪化して所領没収を命じられた四条金吾に対しては、「あなたのことを、絶えず祈っています。それは、あなたが法華経の命を継ぐ人だからです」(趣意、御書新版1590ページ・御書全集1169ページ。2022年7月度座談会拝読御書を参照)と仰せになり、信仰を継いでいく期待を述べられています。

別の御書では弟子たちに、「わとうども二陣三陣つづきて」(御書新版1227ページ・御書全集911ページ)――私の門下たちよ、先陣である私に二陣・三陣と続いて教えを広げていきなさい――と念願されました。

次の世代、また次の世代へと信仰を伝えていく“流れ”が広宣流布であり、仏法者の生き方そのものなのです。継承しゆく一人一人の成仏のため、そして、あらゆる人々の幸福と世界の平和のために。

信仰に年齢は関係ない

仏典には、徳勝童子という5歳の少年の物語が記されています。目の前を通りかかった釈尊に対して、徳勝童子は、土で作った餅を供養として差し出します。食べられるものではありませんが、幼くても尊い真心によって、徳勝童子は偉大なアショーカ王として後に生まれたとされました。

『法華経』には、蛇身であり8歳の少女である竜女が登場し、『法華経』の教えを聞いて成仏していたことが説かれています。

子どもであっても立派な一人格であり、信仰の本義として、年齢は関係ありません。“まだ幼いから、祈ってもかなわない”などということはないのです。

また、大聖人は、仏法における親子の関係について、ある夫妻に次のように仰せです。

本文

現世には跡をつぐべき孝子なり、後生にはまた導かれて仏にならせ給うべし。

(御書新版1631ページ・御書全集1123ページ)

意味

(あなたたち夫妻の子は)現世では跡を継いでいく親孝行の子であり、来世には、また、この子に導かれて仏になられることでしょう。

これは『法華経』に説かれる妙荘厳王(注)親子の物語に基づいた言葉です。子どもは、親のもとで育ち、継いでいく存在ですが、来世では反対に、子どもが親を成仏へ導く存在になると述べ、親子の深い縁を示されています。それほど、子どもたちは尊い存在です。

(注)妙荘厳王[みょうしょうごんのう]
『法華経』妙荘厳王本事品に説かれる王。バラモンの教えに執着していたが、先に仏法に帰依していた妻の浄徳夫人と、浄蔵・浄眼という2人の息子に導かれて仏道に入ることができた。

“形”の奥にある“心”こそ

子どものころに親から信仰を継承した門下に、南条時光[なんじょうときみつ]がいます。大聖人は「南条殿御返事(大橋太郎の事)」において、次のように喜ばれています。

本文

御心ざしのあらわれて候こと、申すばかりなし。せんずるところは、こなんじょうどのの法華経の御しんようのふかかりしことのあらわるるか。「王の心ざしをば臣のべ、おやの心ざしをば子の申しのぶる」とは、これなり。あわれ、ことののうれしとおぼすらん。

(御書新版1856ページ・御書全集1531ページ)

意味

(ご供養に)あらわれているお志は、言葉では言い尽くすことができない。それも結局は、故南条殿の法華経の御信用が深かったことがあらわれたものだろうか。「王の志を臣が述べ、親の志を子が申しのべる」とは、このことである。故殿はうれしく思っておられるであろう。

時光の父親である南条兵衛七郎[なんじょうひょうえしちろう]は、念仏を信仰する一族の中で大聖人の門下となり、南無妙法蓮華経の信心を貫きました。そのような父の姿を見て育ち、同じ信仰の道を歩んだ時光は、わずか7歳で父を亡くした後、ますます純真に信心に励みます。

この御書は、時光が大聖人に供養を届けたことに対する御返事ですが、大聖人が時光を讃歎されているのは「御心ざし」、つまり、あつい信仰の心です。しかもそれは、亡くなった父親の深い信心が子に継がれ、あらわれたものであろうと述べられています。

信仰の継承とは、修行・実践の継承であり、それは目に見える“形”と言えます。しかし、大聖人が時光をたたえたのは、“形”としての実践の根底にある、清らかな“心”であり、それこそが父から受け継いだものと洞察されているのです。

親の立場から考えると、勤行・唱題を一緒に行い、御書などを共に学び、仏法に基づく考え方・生き方を語っていく中で、おおもとにある信仰の心を伝えていくことが、継承の根幹として大切であると捉えることができます。これは親から子だけでなく、祖父母から孫へ、あるいは信心の先輩から後輩へという関係などでも当てはまるものでしょう。

自身が信心を始めた時の決意、実践によって得られた信仰体験と確信・喜び、そして、子どもたちの成長と幸福を願う真心――こうした思いを伝えながら、その時々の子どもの状況や考えに寄り添っていく。信仰の継承は、子への敬意をもった、あたたかな心の触れ合いの中にあります。

御書のページ数は、創価学会発行の『日蓮大聖人御書全集 新版』(御書新版)、『日蓮大聖人御書全集』(御書全集)のものです。

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