各国のヘイト対策規制~連載「ヘイトスピーチを考える」③

6月18日は、国連総会で決議された「ヘイトスピーチと闘う国際デー」。連載「ヘイトスピーチを考える」では、ヘイトスピーチの解説や国内外の状況、仏法の視座から考えるオピニオン記事などを全8回に分けてお届けします。

第3回では、「各国のヘイト対策規制」について解説します。

150カ国以上でヘイトスピーチを規制

現在、世界150か国以上の国でヘイトスピーチを禁止する法律や規制が存在し、何かしらの罰則が設けられています。以下、いくつか代表例を挙げます。

○イギリス
イギリスは早くからヘイトスピーチの法規制に積極的に取り組んできており、現在ではいくつかの法令による多方面にわたる規制が行われている。主に、1986 年公共秩序法の第3部「人種的憎悪」に定められている。

○カナダ
カナダは世界有数の移民国家であり、連邦と州の両方で人種差別やヘイトスピーチに対する法的な規制が厳しく定められている。カナダ人権法や刑法典によってヘイトスピーチが規制されており、公共の場で人々を憎悪したり差別したりするような表現が行われると法的な制裁が科される。

○フランス
フランスは早くからヘイトスピーチの法的規制に取り組む、積極的な西欧諸国の一つとして知られている。主に包括的人種差別禁止法であるプレヴァン法、またホロコースト否定罪に定められ、近年ではインターネット上のヘイトスピーチ規制にも取り組んでいる。

○ドイツ
ドイツはナチズムへの反省から、ヘイトスピーチに対して厳しい法律が存在する。侮辱罪の集団への適用、民衆扇動罪などによって規制されており、人種差別や反ユダヤ主義などの表現は厳しい罰則が科される。近年ではインターネット上のヘイトスピーチや違法コンテンツを管理する法律も施行された。

以上のように、とりわけ西欧諸国は、人種主義的言論やヘイトスピーチに対して比較的広汎な法的規制を課しています。これは、第二世界大戦中にナチスドイツが行った大規模な人種差別やホロコーストへの歴史的反省からです。ヘイトスピーチは社会に対する深刻な脅威であり、暴力の温床となる可能性があると認識されています。

一方、ほとんどの自由民主主義諸国とは対照的に、アメリカではヘイトスピーチを規制する法律が設けられていません。自由と自立を求めてイギリスから独立した歴史をもつアメリカでは、その過程で言論の自由が重要な役割を果たしました。自由な言論は民主主義の根幹をなすものだと考えられています。

人権保障を推進する「国内人権機関」

法律とは別に、ヘイトスピーチを含む人権侵害から国民を救済するため、また人権保障を推進するために、「国内人権機関」を設置している国も多くあります。

「国内人権機関」とは、1993年に国連総会で決議された「国内人権機関の地位に関する原則」(パリ原則)に基づいて設置される、政府から独立した国家機関です。

ヘイトスピーチを規制する法律、またそれを判断する裁判所は、人権保障の最後の砦となる機関ですが、厳格な事実認定とその手続きが必要であり、救済のためには長い時間を要します。また弁護士に依頼しないと効果的な訴訟活動を行うことができず、一般市民には敷居が高いのが実情です。

人権侵害の相談に素早く対応し、調査、また差別や人権侵害が認められた場合に直ちに勧告し、迅速な解決を図るための組織が、国内人権機関となります。また人権保障推進のために、国に政策提言や教育活動の展開をする役割もあります。

こうした理由から、国連は世界各国に国内人権機関の設立を求め、2021年時点で世界117機関が国内人権機関に認定をされています(「完全にパリ原則に適合」は84 機関、「部分的にパリ原則に適合」は33機関)。アジア・太平洋地域でも24カ国・地域で国内人権機関が存在しています。

ヘイトスピーチ規制の法律が存在しないアメリカでも、この国内人権機関は設置されています。

日本では2016年6月に、ようやく「本邦外出身者」を対象とした「ヘイトスピーチ解消法」が施行されましが、被害者を救うための国内人権機関は設置されていません。

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