「ヘイトスピーチ解消法」とは~連載「ヘイトスピーチを考える」④

6月18日は、国連総会で決議された「ヘイトスピーチと闘う国際デー」。連載「ヘイトスピーチを考える」では、ヘイトスピーチの解説や国内外の状況、仏法の視座から考えるオピニオン記事などを全8回に分けてお届けします。

第4回では、2016年6月に成立した「ヘイトスピーチ解消法」(正式名称:本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律)について解説します。

制定の経緯と内容

「差別」に関わる問題は、世界中どの地域でも起こっており、日本も例外ではありません。在日外国人、部落出身者、ハンセン病患者、先住民族など、大勢の人が不当な差別に苦しんできました。

2000年代にインターネットが普及すると、インターネット上にヘイトスピーチが蔓延するようになります。

2010年代からは、特定の国の出身者であること又はその子孫であることを理由にした差別的なデモや街宣活動が社会問題となっていました。「○○人は殺せ!」「○○人は祖国に帰れ!」など、人としての尊厳を大きく傷つける言葉を、スピーカーを使って大音量で流すケースもありました。こうした差別的な言動を解消するために2016年6月に制定されたのが、ヘイトスピーチ解消法です。

ヘイトスピーチ解消法は全7条で構成され、比較的シンプルな内容になっています。この法律の特徴の一つは、「○○人」という不特定の人に対する差別的表現について、「許されない」と宣言した点です。

特定の人に対する侮蔑的表現が許されないことは、従来の法律で定められていました(侮辱罪や名誉毀損罪など)。一方で、不特定の人に対する差別的表現についての国の態度は不明確でした。

ちなみに、この法律では、ヘイトスピーチに対する禁止事項や罰則は設けられていません。なぜなら、ヘイトスピーチと関係ない表現が規制され、「表現の自由」が侵害される可能性があるからです。

制定の効果と現状の課題

ヘイトスピーチ解消法第4条では、地方公共団体に対して、差別的言動の解消に向けた施策の推進を要請しています。そのため、制定以降、自治体による条例の制定が各地で進みました。激しい街宣やデモが繰り返された川崎市では2020年7月、ヘイトスピーチに罰則規定を設けた条例が全国で初めて施行されました。その結果、差別的なデモや街宣運動は大きく減りました。

しかし、人種や民族などを理由とする不当な差別的言動はあとをたちません。近年、特に課題となっているのが、インターネットやSNSでのヘイトスピーチです。インターネット上での誹謗中傷の被害相談を受け付ける「誹謗中傷ホットライン」が2022年の1年間に受理した連絡件数は、2152件に上っています。

不当な差別を根絶し、多文化共生の社会を目指すためには、今後も粘り強い努力が求められます。

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