「選挙ヘイト」について~連載「ヘイトスピーチを考える」⑥

6月18日は、国連総会で決議された「ヘイトスピーチと闘う国際デー」。連載「ヘイトスピーチを考える」では、ヘイトスピーチの解説や国内外の状況、仏法の視座から考えるオピニオン記事などを全8回に分けてお届けします。

第6回は、最近注目された「選挙ヘイト」について解説します。

選挙ヘイトってなに?

「選挙ヘイト」とは、報道などで用いられている言葉で、選挙運動を利用して差別をあおり、実質的なヘイトスピーチを行うことを指します。

2016年の「ヘイトスピーチ解消法」の成立・施行後、従来のデモによる露骨なヘイトスピーチは減少したといわれています。一方、選挙の立候補者に認められる「街頭演説」の中で、候補者や政治家が差別を煽るような発言を繰り返す事例が報告されるようになりました。

そうした状況を踏まえ、法務省では2019年3月、「選挙運動、政治活動等として行われる不当な差別的言動への対応について」という連絡を各法務局に通知し、「選挙運動等として行われたからといって、直ちにその言動の違法性が否定されるものではありません」と明言しています。

この見解は警察庁や公安委員会、自治体、選挙管理委員会などの各機関にも伝えられており、自治体によっては「選挙ヘイト」対策が進んでいます。

たとえば、本年4月の京都市議選、京都府議選の立候補予定者への事前説明会では、選管職員が「選挙運動を口実に、不当な差別的言動は行わないように」との注意喚起を行い、法務省が作成したヘイトスピーチ解消のリーフレットが出席者に配布されました。

選挙ヘイトの最近の事例

残念ながら、本年4月に行われた統一地方選と衆院補選でも、「選挙ヘイト」と見られる事例が報道されています。

事例①:4月9日投開票だった横浜市議選の神奈川区選挙区で、落選した国民民主党の見矢木素延氏が、中国出身であることから、対立する無所属候補が「国民民主党が中国人を立候補させようとしている。横浜が乗っ取られる」と演説しました。見矢木氏側のスタッフが「ヘイトは止めてほしい」と抗議すると、「演説の妨害だ」と騒がれたといいます。また、その無所属候補はSNSで差別的言説を繰り広げました。

事例②:4月23日投開票の衆院千葉5区補選で初当選した自民党の英利アルフィア氏は、両親が中国出身であるために「中国共産党のスパイだ」などの誹謗中傷を受けました。

選挙運動の自由の保障は、民主主義の根幹をなすもので、最大限に配慮されなければなりません。選挙運動を隠れ蓑にしてヘイトスピーチを拡散する言動を、有権者は厳しく見極めていくべきでしょう。

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