日本のヘイトスピーチ対策と国際社会の評価~連載「ヘイトスピーチを考える」⑤ 

6月18日は、国連総会で決議された「ヘイトスピーチと闘う国際デー」。連載「ヘイトスピーチを考える」では、ヘイトスピーチの解説や国内外の状況、仏法の視座から考えるオピニオン記事などを全8回に分けてお届けします。

「ヘイトスピーチ解消法」が2016年6月3日に施行され、川崎市や大阪市などの各自治体においても、条例などで対策に乗り出しています。連載の第5回では、その一部を紹介しつつ、日本のヘイトスピーチ対策に対する国際社会の評価を解説します。

大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例

大阪市は2016年1月、全国で初めてとなるヘイトスピーチ抑止条例「大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例」を制定しました。有識者でつくる審査会がヘイトスピーチと判断した場合、市がその内容や氏名、団体名を公表するとしています。

この条例が表現の自由を保障する憲法に違反するかどうかが争われた住民訴訟の上告審判決で、最高裁第3小法廷(戸倉三郎裁判長)は2022年2月15日、「制限は合理的でやむを得ない限度にとどまる」として合憲だと判断しています。

大阪市では、これまで11件を「ヘイトスピーチ」と認定したと公表しています。

川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例

2019年12月、神奈川県川崎市議会で「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」が成立し、段階的に施行されています。

川崎市では在日コリアンを標的にしたヘイトスピーチが繰り返され、2016年6月の「ヘイトスピーチ解消法」の施行後も、ヘイト行為が横行していました。その状況に対し、川崎市は抑止力のある条例を整備しようと取り組んできました。

全国で初めて罰則規定を盛り込んだ条例となり、市の勧告や命令に従わず、差別的な言動を繰り返した場合、最大で50万円の罰金が科されることになります。

東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例

東京都議会は2018年10月、いかなる種類の差別も許されないという、オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念が広く都民等に一層浸透した都市となることを目的として、「東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例」を制定。都道府県レベルで初めてヘイトスピーチ解消法の実効化を条例において行った点で評価されています。

2022年は計7件をヘイトスピーチと認定しました。

国際社会からの評価

ヘイトスピーチ解消法が制定され、各自治体で取り組みが進んでいますが、まだまだ問題は解決されていません。こうした日本の状況は、国際社会からどのように評価されているのでしょうか。

2022年10月、ジュネーブで自由権規約委員会による第7回日本政府報告審査が行われました。

審査では、日本国内の本邦外出身者を標的とした差別行為について多くの報告があることから、「ヘイトスピーチ解消法の法律の効果は具体的にどのようなものだったのか」と疑問を呈されました。日本政府は「現在の範囲を超えて規制することに関しては表現の自由の観点などから非常に慎重な検討が必要」との見解を述べました。

2023年1月には、国連人権理事会による、日本についての普遍的定期的審査(UPR)が実施されました。UPRは、2006年の人権理事会の創設に伴い導入された、すべての国連加盟国(193カ国)が互いに人権状況を審査し合う制度です。

審査の中で、ヘイトスピーチを含む人種差別の禁止をはじめとする包括的な差別禁止法の整備に関しての勧告が、22ヵ国から出ました。

「ヘイトスピーチ解消法」の効果を高めるのもさることながら、さらに包括的な差別禁止法を制定し、独立した国内人権機関を設立しなければ、世界水準の人権保障にはならないことが、浮き彫りになっています。

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