発達障がい(ADHD)グレーゾーンの〝僕〟であるからして〈完〉 ▶︎流れる〜脳内プレイリスト〜ほか

脳内プレイリスト

頭でよく音楽が鳴っている。中学生の頃くらいからだろうか。学術的には「ディラン効果」と言うこともあるらしい。
歌は嫌いじゃないから、あまり不自由を感じたことはない。

ただ少しヤッカイなのは、急にスイッチが入ること。

街を歩いていると、ふと看板や広告に目がいく。
映画の告知、ライブの宣伝、テレビCMでお馴染みの企業……見えたと同時に次から次へと、主題歌、アーティストの代表曲、キャッチフレーズが頭をよぎる。

組織で打ち合わせしている時なんかも、誰かが「明日の会合どうする?」などと言うと、「あした」の歌詞が入った曲が再生されることもしばしば。話が入ってこなくなってしまうことがある。

夢中になっている時に、「〝僕〟はどう思う?」などと指されると詰みだ。
「も、もう一回いいですか?」と即刻謝罪の時間。
時折、周りにバレない程度にノッてしまうことがあるのは、さすがにどうにかした方がいい。
ゼッタイに。

よかったと思うこともあった。
イントロクイズが少し得意なことと、「この曲なんだっけ?」と聞かれるとわりと答えられること。

一度印象に残った曲は、フレーズが脳内にストックされているらしい。ある時、「曲名がどうしても知りたい」という友人から音階の怪しい1フレーズをヒントにもらい、鼻歌検索の手を借りながら約50年前にリリースされた楽曲名を当てたこともあった。

年に一度あるかないかという、出番の少ないニッチな特技である。

ラーメン屋の迷子

ラーメン屋は食券制がありがたい。

〝僕〟はラーメンが好きだ。とっても。行きつけがあるが、新店開拓もする。
初めての店に行く時、食券機の有無は重大事項だ。

店の中に入った瞬間、脳内にはラーメンそっちのけでいろんな情報が流れ込んでくる。

〝テーブルの木の感じいいなぁ〟
〝店員さんが着てるTシャツの文字、なんて書いてあるんだろ〟
〝BGM知ってる曲だ〟

こんな具合。慣れない場所だと店員さんの「こちらのお席どうぞ」を聞き逃し、カウンター10席ほどの敷地で道に迷いかける。以前、オーダー制に当たった時、「ご注文は?」と聞かれ、「この曲いいですよね」なんて店の回転スピードを妨げかねないことを言いそうになった。

食券制なら「お客さん、カフェと間違えてません?」というツッコミは確実に回避できる。

会合に出る時も、同じようなことがある。

〝あのネクタイの色ほしいな〟
〝メガネ変えたかな〟
〝「え〜」って話をつなぐの5回目だ〟

前に出て話している人の内容以外のものに気を取られて、大部分を聞き漏らしてしまう。
だから感想を求められると、うまく話せない。〝また変なこと言ってしまった〟と家に戻って一人反省会。新しい情報の少ない場所で、会合時のメンバーの体験や指導のスゴイと思う部分がじわじわと出てくる。

〝僕〟の感動は、帰ってからやって来る。

〝行ってよかった〟
一人でうま味を噛みしめるのは時に物寂しい気がするけれど、ほっぺが落ちそうなスープとの出あいも、頑張っているメンバーの人間ドラマを知ることも、この生きづらさを一瞬でも忘れてしまうくらいにやめられない至福の時間なのだ。

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